2023年7月、待望のジブリ最新作『君たちはどう生きるか』が遂に公開されました。この作品は、宮﨑駿監督が引退宣言を取り消してまで手がけたものであり、多くの人々からは彼の最後の監督作品と見なされています。
この宮﨑駿の心血を注いだ作品には、一度の鑑賞では解明しきれない謎が多く散りばめられています。例えば、アオサギの正体や大おじの意図、そしてラストシーンの意味などがその一例です。
本記事では、映画『君たちはどう生きるか』のあらすじをネタバレしつつ解説し、劇中に散りばめられた謎を徹底的に考察してみたいと思います。
もしも映画を観ても納得いかない点があった方は、ぜひこの記事をチェックしてみてください。
なお、こちらの記事には映画『君たちはどう生きるか』の重要なネタバレ情報が含まれていますので、まだ鑑賞されていない方はご注意ください。
作品の概要
「君たちはどう生きるか」とは?
『君たちはどう生きるか』は、2013年に公開された「風立ちぬ」以来10年ぶりに制作されることになったスタジオジブリのアニメーション映画です。
ベルリン国際映画祭の金熊賞や米アカデミーの長編アニメーション賞を受賞した「千と千尋の神隠し」など、スタジオジブリから数々の名作を生み出してきた宮崎監督が、「風立ちぬ」公開後に発表した長編作品からの引退を撤回し、新たに取り組んだのがこちらの作品です。
映画のあらすじ
1943年の太平洋戦争中、牧眞人は空襲により実母・久子を失います。3年後、父であり軍需工場の経営者である正一は実母の妹である夏子と再婚し、眞人は母方の実家へ工場と共に疎開します。
そこにはアオサギという覗き屋の住む塔が建っていました。眞人は塔の中へ入ろうと試みますが、屋敷の人々に止められます。その後、夏子から塔の謎について教えられ、眞人は大叔父によって建てられた塔の歴史や秘密を知ることになります。
そんな中、新しい学校での転校初日、眞人はうまく馴染めず、地元の少年たちからいじめを受けます。自傷行為によって隠すためにけがを負ってしまうものの、その後アオサギとの夢の中で異世界的な体験をします。
そこで眞人はアオサギの力を借りて、自作の弓矢を作成し身を守る方法を学び、夏子やアオサギと共に、眞人は奇妙な冒険へと旅立つことに。
主要な登場人物
牧眞人:山時聡真
本作の主人公。真っ直ぐな性格を持っていますが、母親を亡くしたことで元気をなくしています。
演じるのは山時聡真さん。2005年生まれで、『君たちはどう生きるか』が公開された当時は18歳でした。
アオサギ:菅田将暉
お屋敷の近くに住み着いてる主要キャラクター。中身は中年の男性で、最初は周囲と敵対的な関係でしたが、徐々に互いに友情が芽生えてくるという展開が描かれています。声優には菅田将暉さんが起用されており、その演技力はまさに見事。彼はこのアオサギの役どころを、驚くほどリアルに演じきっています。
ショウイチ(マヒト父):木村拓哉
眞人の父親。亡くなった妻の妹と再婚しました。彼は最初は切り替えが早いように見えましたが、実際はとても家族思いの人で、マヒトや夏子が行方不明になった際には必死で彼らを探しました。声優を務める木村拓哉さんはハウル以来のジブリ作品となります。
ヒミ(ヒサコ):子供時代の声:あいみょん
本作のヒロインとして登場する人物。謎めいた女性として初めて登場しますが、その正体は主人公であるマヒトの若き日の母親となっています。彼女は炎を操る力を持ち、異世界での治安を守る役割を果たしています。このヒロインの役を演じるのは、ミュージシャンであるあいみょんさんです。あいみょんさんは今回が吹き替え初挑戦となりますが、以前にはクレヨンしんちゃんにゲスト出演した経験もあります。
キリコ:柴咲コウ
避難先の屋敷で働くお手伝いさん。眞人とともにナツコを探し、異世界へと進む。現実世界のキリコはタバコに夢中な性格をしている一方、異世界のキリコは漁をして白いワラワラの世話をしながら暮らしています。キャラクターを演じるのは柴咲コウさんです。声優としてはゲスト出演が中心で、ディズニー映画『クルエラ』ではエマ・ストーンの声を吹き替えていました。
「君たちはどう生きるか」謎の考察(ネタバレあり)
原作との関係性
映画を見るよりも先に、「君たちはどう生きるか」の名前を聞いて、ピンとくる方がいるかもしれません。このタイトルは1937年に吉野源三郎(が書いた子供向けの本の名前をそのまま使用しています。
宮崎駿自身もこの小説に深い感銘を受けていることで知られており、その感覚を元にジブリ作品のシナリオや作画に取り組んだとも言われています。
この事実から、映画「君たちはどう生きるか」も原作をモデルとして制作されているのではないか?と因果関係があることを問う声がちらほら見受けられます。
しかし、実際のところ「登場キャラクター」「ストーリー」が全く異なる内容となっているため、原作とは異なる完全オリジナルの作品だということが言えます。
なぜアオサギが採用されたのか
映画のポスターに登場する象徴的な存在であるアオサギ。作中ではサギ男と呼ばれ、なんとなくイケメンの雰囲気を醸し出してたものの、実はその中身はハゲたおっさんだったと知ってガックリきた方は多いのではないでしょうか?
そんな本作の主要キャラであるサギ男ですが、なぜ鳥の「アオサギ」がモデルとなっているのか。
これには諸説ありますが、1番しっくりとくるのが「大嘘付きで狡賢い奴だから」というもの。実際に作中のサギ男は、主人公の眞人に対し「死んだはずの実母が生きている。眞人のことを待っている」と嘘をつく場面があります。
その後には、アオサギが眞人を塔の中へと案内し、実母と再開させる場面がありますが、この母というのがアオサギが作った偽物だったという場面へと繋がります。
このように、わざと眞人を陥れるために嘘とズルを働き、「サギまがい」のことをしているという理由からアオサギが採用されているのではないかという説があるようです。
作中の塔はスタジオジブリがモデルか?
物語の中で、主人公の眞人が迷い込む塔は、突然現れた隕石を囲むために建てられた洋館だとされています。この塔の製造には多くの人が犠牲になったり、不気味な雰囲気があり、現在は入口が土で封鎖されています。
この塔の状況とスタジオジブリを比べてみると、どこか類似している点があることに気が付きます。
例えば、スタジオジブリはたくさんのスタッフが一丸となり、素晴らしいアニメ作品を生み出してきましたが、必ずしも順風満帆な道のりではありませんでした。過去には一部の監督がプロジェクトから外されるなどの困難もありました。
このような経験を通じて、最終的にスタジオジブリは長編アニメ映画の制作自体を終了することになります。この決断は、物語のラストに描かれる「塔が崩壊するシーン」とどこか重なっているように見えることから、「塔はスタジオジブリそのものを表している」のではないかと考察ができます。
ラストの解釈とメッセージ
物語のクライマックスで、主人公の眞人、ナツコ、キリコは元の世界に戻り、インコたちも元の姿に戻りました。特に印象的だったのは、眞人が自分の記憶を失わなかったことです。アオサギは、「キリコの人形と積み木を持ってきたから」と言っていますが、それだけが理由だけではないように感じます。
眞人は血のつながりだけでなく、特別な何かを内に秘めていることから、大叔父によって世界を創る者として選ばれました。この特別なものは、「自分の人生を歩む」という強い決意です。この強い決意と、キリコの魂がこもった人形、他人の人生が詰まった積み木が結びつくことで、眞人は自分の記憶を保つことができたと考えられます。
最終的に物語は1947年の戦後2年で結末を迎えます。ナツコは子供を出産し、兄となった眞人の未来は、彼自身にしかわからないものです。これは人生の本質であり、自分の人生は他人には理解できないことを象徴しているのではないかと思います。
まとめ
考察という観点から見れば、ジブリ作品の中ではダントツで考察が難しい映画だと言っても過言ではありません。
あまりの奥深さに、この映画は宮崎駿監督の考えを唯一理解できる「宮崎駿」のためだけに作られた作品だとも捉えることができます。
とはいえ、作中の随所に「ジブリ」を感じることができる演出が隠されているので、誰が見ても魅力的に映る素敵な映画だと思います。
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