伏見の酒造りの歴史からお酒選びのポイントまで
全国で長い歴史と伝統をもつ40を超える酒蔵が集まる活気のある酒処で知られる京都。
そんな京都の中でも京都市の南部に位置する伏見は、兵庫の灘、広島の西条とともに日本三大酒処のひとつとして数えられています。この美しい水に恵まれた町は、日本酒の宝庫として名高く、ここでは名だたる酒蔵が日々伝統的な酒造りを続けています。
そこで今回は、京都府の伏見地域で輝く日本酒文化に焦点を当て、伏見の人気銘柄10選のご紹介から、伏見の酒造りの歴史やお酒選びのポイントまでまとめてお伝えします。
古くから酒造りが伝わる伏見という町
伏見の酒のはじまり
日本三大酒処の一つとして知られる京都市伏見区。そんな伏見の酒造りの歴史は非常に古く、記録としては渡来系の秦氏らが大陸から稲作を日本に持ち込んだ5世紀にまで遡るとされています。
奈良時代には、お酒や酢の醸造を専門に行う役所が設置され、江戸時代に入ると交通の要所として発展。そして、多くの酒造りの専門家がこの地に集まるようになった明治時代の後半には、伏見の酒が全国的に有名になり、「天下の酒どころ」として認知されるようになります。
その伝統は今も受け継がれ、現在では100年以上の歴史を持つ酒蔵が20以上も伏見区に存在します。
伏見の女酒と呼ばれる所以
伏見のお酒は「伏見の女酒」とも称され、新酒は特に甘口で知られています。
この特徴の背後には、「伏見の伏水」と称される名水が大きく影響しています。
伏見は古くから豊富で良質な地下水に恵まれた土地で、現在でも、日本名水百選に選出されている「御香水」をはじめ、「白菊井」や「苔清水」といった名水が数多く沸いています。
この名水というのが、適度にミネラル分(カルシウムやマグネシウムなど)を含む中程度の硬水。これにより、伏見の日本酒は灘の宮水よりも柔らかく、ゆっくりと発酵するため、酸味が控えめで、滑らかな口当たりで淡麗な味わいが生まれます。
そのため、やや酸味の強い辛口の味わいで「男酒」とも呼ばれる灘の日本酒に対し、全体的にマイルドな仕上がりの伏見のお酒は「女酒」と呼ばれているのです。
ただ最近では、伏見でも様々なバリエーションの日本酒が生まれ、香りがフルーティーなものや淡麗で辛口なものなどが誕生しているので、料理や個人の好みに合わせて選びやすくなっています。この多様性も、伏見の日本酒の魅力の一部だと言えます。
伏見でお酒を選ぶ際のポイント
名が知られている蔵元から選ぶ
伏見地域には、いくつかの有名な蔵元が存在します。例えば、「黄桜」や「宝酒造」「月桂冠」など。これらの蔵元は非常に評判が高く、テレビ広告でもよく見かけます。
なぜこれらの蔵元が有名なのかというと、長い間にわたり、伝統を守りつつ高品質な日本酒を製造し続けてきたからです。そのため、一般的な蔵元よりも品質の良い日本酒に出会える確率が高いのです。
また、それぞれの蔵元は独自のこだわりや製法を持っており、そのために各メーカーの日本酒は独自の「味」や「風味」を持っています。これが、人々の好みに合わせて選ぶ際に、はっきりと異なる味わいを楽しめる理由です。
このように事前に蔵元の情報を知っておくだけで、自分好みの日本酒を探しやすくなるので、ぜひ代表的な蔵元を中心に探してみてください。
日本酒の味を決める酒米に注目
日本酒を選ぶ際、酒米の種類を確認することも欠かせません。なぜなら、日本酒の味わいに影響を与える要素の一つが、使用される酒米とされているからです。
酒米の中でも、「山田錦」や「五百万石」といった有名な品種は広く知られていますが、京都には「祝」や「京の輝き」といった他では味わえない独自の酒米が栽培されています。
五百万石はバランスの良い味わいが特徴で、やや辛口の日本酒に仕上がります。一方で、京都の祝などは淡麗な味と独特の芳香が特徴で、吟醸酒向きとされる酒米です。
さらに、京都で作られた酒米というのは、米質が硬く、精米歩合を高くしても割れにくいという利点があります。この特性により、京都の日本酒は一般的に高品質で美味しいと評価されています。
実際に京都府内の酒蔵の3分の2が、これら京都産酒米を使用して日本酒を醸造しており、京都の酒造のみが扱うことができる特別な品種とされています。
このように酒米にも注目することで、他の地域では味わえない独特の味わいを持った日本酒を探すことができます。そのため、京都の伏見で日本酒を選ぶ際にも、ぜひ原料となる酒米にも注目してみてください。
ボトル・ラベルデザインによる選択
日本酒を選ぶ際、ボトルやラベルのデザインにもぜひ注目してみてください。近年、日本酒のボトルデザインは一昔前と比べてモダンで洗練されたものが増え、さまざまなシーンに合わせて選ぶことができるようになりました。贈り物として選びたい場面でも、デザインに失敗しないで済むでしょう。
例えば、上司や目上の方への感謝を伝える際には、高級感のあるシンプルなデザインの日本酒がおすすめです。このような場合、「井筒屋伊兵衛 祝米 三割五分磨き 純米大吟醸」のような高品質さを感じさせるお酒を選ぶといいでしょう。
一方で、友人たちとの会食などカジュアルな食事の席では「玉乃光酒造 純米大吟醸 短稈渡船」といったおしゃれかつ爽快感のある日本酒がぴったりです。
そのほかにも、最近では思わず笑ってしまうような個性的なものから、クールでワインのような印象を持つもの、さらに漫画とコラボした商品まで誕生しています。
まだ日本酒を飲み始めたばかりで「どのお酒を選べばいいのかわからない」といった場合でも、遊び心を持って日本酒選びを楽しむことができるので、デザイン選びから始めてみるのもおすすめです。
伏見の人気銘柄10選
以下は、伏見の日本酒の中でも特に評価の高い10選です。
試してみて、お気に入りを見つけてみましょう。
「澤屋まつもと 守破離 五百万石」松本酒造
200年以上の歴史と近代化産業遺産の酒造蔵を構える松本酒造が手がける純米酒。澤屋まつもとの人気シリーズ「守破離」のうちの一本です。原料には精米歩合65%の富山県産好適米「五百万石」が採用されており、さっぱりとした柑橘系の香りと、ジューシーな旨味が魅力。旨味はしっかりしているものの、後味がすっきりしているため、お刺身や和食、さらに揚げ物などにもピッタリです。720mlのものでもお値段1,500円以内に収まるので、ビールのような日常酒として愛飲してみるのもありです。
「純米大吟醸備前雄町100%」玉乃光酒造
純米酒専門の酒蔵である玉乃光酒造が手掛ける純米大吟醸。玉乃光の看板商品でもあるこの銘柄は、有機肥料によって育てられた元祖酒米「備前雄町」を100%使用した最高級の一本です。一般の大吟醸にありがちな「香りはたつものの、味の薄いお酒」ではなく、雄町特有のしっかりとした味わいと、フルーティーな吟醸香があり、いつまでも飲み飽きしないのが特徴。白身魚のお刺身や天ぷらなど、淡白な味わいの料理にも相性ぴったりです。
「純米大吟醸 短稈渡船」玉乃光酒造
希少性の高い酒米「短稈渡船」で作られた玉乃光酒造の純米大吟醸です。短稈渡船とは酒米の王様「山田錦」の交配親として知られ、さらに系統としては幻の酒米「雄町」の子に当たるまさにサラブレッドとも呼べる品種です。そんな短稈渡船で醸された本商品は、華やかかつ芳醇な香りとキレのある味わいが特徴で、お出汁や海鮮、魚の塩焼きなどさっぱりとした料理とよく合います。また、爽快感のある淡い藍色のラベルがおしゃれと評判で、知人やお祝い事などのプレゼントにもおすすめの逸品です。
「 英勲 純米吟醸 古都千年」齊藤酒造
京都産酒造好適米「祝」での酒作りに注力する斉藤酒造による純米吟醸。全国新酒鑑評会で14年連続金賞を受賞した英勲の中でも、「祝」の特性がしっかりと引き出されている「古都千年」シリーズの一本です。祝を55%まで磨き上げて醸したことで、純米大吟醸とは違う、キレのある口当たりとバランスの良い辛さが表現されています。味わいには上品さがあり、程よく吟醸香がたつので飲みごたえも抜群です。2005年〜2009年には5年連続で「全米日本酒鑑評会」にて金賞を受賞するなど、海外でも高い評価を得ている逸品です。
「鳳麟純米大吟醸」月桂冠
日本を代表する酒造メーカー「月桂冠」による至高の純米大吟醸。国際的な品評会「モンドセレクション」で5年連続最高金賞を受賞し続けた日本酒です。原料には「山田錦」と「五百万石」の2つの酒造好適米を贅沢に使用し、それぞれ精米歩合50%まで磨き上げています。華やかな吟醸香とマイルドな味わいが持ち味ですが、発酵期間を通常よりも約30日と長く設けることで、より香りと風味が際立っています。金色と黒のコントラストで描かれる、高級感漂うパッケージも注目のポイントです。
「月の桂稼ぎ頭」増田徳兵衛商店
にごり酒と古酒の生みの親、増田徳兵衞商店から生まれた純米酒です。元は海外をターゲットに生み出された銘柄であり、まるで「白ワイン」のような酸味と甘みが入り交じる上品な味わいに仕上がっています。そのため、日本酒が苦手な方でもとても飲みやすく、一方で日本酒が好きな方の場合には食前酒として楽しめる逸品です。飲む際には、炭酸水や天然水で割り、カシスなど果実を落としてカクテルのようにすると、より飲みやすさがアップしますよ。
「特別純米花洛生もと」招德酒造
伏見で唯一、女性杜氏※が在籍する招徳酒造の特別純米酒。自然の乳酸菌のみの力で酒造りを行う伝統技「生もと造り」によって仕込まれたことにより、バランスの良い酸味と旨みを楽しめます。生もと造り特有とも言える、食欲をそそる香りも特徴で、ウニや牡蠣、アサリといった海産物などと相性抜群です。香りをより楽しむためにも、冷酒ではなく、常温または燗酒がおすすめです。※日本酒の醸造工程を行う職人、および酒造りの最高責任者
「特撰 純米吟醸 黄桜 」黄桜
伏見の名水を最大限生かした酒造りに定評のある黄桜による純米吟醸。こちらは農薬や化学肥料を使わずに育て上げられた特別栽培米「山田錦」と「雄町」をブレンドし、丹念に磨き上げ、伏見の名水で仕込んだ逸品です。芳醇な吟醸酒の香りと米そのものの甘味やなめらかさが特徴。2020年には「ワイングラスでおいしい日本酒アワード」にて金賞も受賞しているため、ぜひワイングラスに注いで楽しんでみてください。
「古都の雫 純米大吟醸」鶴正酒造
創業132年の歴史を持つ鶴正酒造が醸す、高コスパな純米大吟醸。まるで青リンゴのようなフルーティーな吟醸香があり、口に含めばなめらかな米の旨みが広がります。酸味と甘みも控えめで、尚且つ後味もすっきりしているので食事と合わせて飲むのにピッタリです。また、精米歩合が50%以下の純米大吟醸は平均価格2,500円前後するのに対し、こちらは720mlでも1,000円ちょっとで買えてしまうという高コスパな魅力もあります。
「神聖たれ口」山本本家
江戸時代初期の頃に創業した老舗酒造「山本本家」から誕生した冬季限定生原酒。搾り器から自然に滴り落ちた新酒を一切の手を加えずに瓶詰めした新鮮なお酒です。その香りはまるで果実を思わせるかのようなフルーティーさがあり、非常に口当たりの良い味わいが評判。味自体も辛口ではなく、むしろ甘くまろやかであり、開封後にはさらに発酵の際に酵母菌が出す微炭酸も楽しめるので、女性の方にもおすすめです。
伏見酒造組合の 酒蔵・蔵元 21蔵と銘柄
『豊澤本店』
- 「豊祝 純米大吟醸 祝」
やや辛口の仕上がりですが、「白菊水」を使用しているため、すっきりとした綺麗な旨味も感じられます。辛味と甘味を兼ね備えているため、特に京料理との相性が抜群です。 - 「京纏(きょうまとい) 純米大吟醸」
酒米の王様「山田錦」を35%まで磨き上げ、白菊水で仕込まれたこのお酒は、豊かな香りと辛口で清涼感ある味わいに加えて、京都の水の穏やかな旨味を楽しむことができます。 - 「ふしぎな竹酒」
竹のフレッシュな香りと旨みがお酒に溶け込み、優しい味わいに仕上がっています。見た目のインパクトから、贈り物にもぴったりな一本です。
『黄桜』
「特選 純米吟醸 黄桜」
『招德酒造』
「ショートク 特別純米酒 五百万石」
生酛らしい酸を中心に出汁感を含んだ熟成した旨みがギュッと詰まった味わい、キレで以ってフィニッシュする後口。複雑味も感じられ味の乗りを楽しめる。
『共同酒造株式会社』
「美山」
『キンシ正宗』
「金鵄正宗 祝 純米吟醸」
祝米を100%使用し55%精米、クリーミーな優しい香りと祝の特徴でもある切れの良い甘さが心地よい爽やかな味わい。
『玉乃光酒造』
- 備前雄町100% 純米大吟醸
玉乃光酒造の看板商品。瑞々しいフルーティーな吟醸香と雄町らしいしっかりとした味わいが特徴で、飲み飽きしないのがポイント。キレのある後味も心地よく、余韻を残します。 - 酒魂(しゅこん) 純米吟醸
尖った部分がなく、バランスの良い味わいにまとまっているため、料理の良さを引き出す、食中酒にピッタリ。2022年には、全国燗酒コンテスト2022の「お値打ち熱燗部門(55℃の熱燗)」にて、金賞も受賞しています。 - 純米大吟醸 短稈渡船(たんかんわたりぶね)
芳醇な香りとキレのある味わいが特徴で、冷やして飲むとさらにフレッシュな印象に変わります。爽快さを感じる青のラベルも魅力的で、知人への贈り物としてもぴったりな一本です。 - GREEN 山田錦 有機 純米吟醸
香りは穏やかで清潔感があり、味わいはまろやかで優しいです。海鮮物や湯豆腐、魚の塩焼きといったさっぱりとした味に相性抜群です。
『都鶴酒造』
「特撰 都鶴 純米吟醸」
穏やかな吟醸香としっかりとした味わいのやや甘辛口。程よい酸と後味の良さは、食中酒としておすすめ。ふくよかな吟醸香、すっきりとした口当たりが特徴です。
『平和酒造』
「慶長 伏見の酒 純米大吟醸」
滑らかな口当たりとバランスのとれた米の甘みが広がるお酒。
『松本酒造』
「桃の滴 愛山 純米酒」
高級酒米「愛山(あいやま)」で仕込んだ唯一無二の純米酒。独特の酸味とキレの良さが特徴。
『北川本家』
「富翁 純米吟醸 祇園小町」
やわらかな口あたりの純米吟醸酒です。
『京姫酒造』
「純米大吟醸 紫」
減農薬減化学肥料栽培の雄町を使用し、伏水でじっくりと低温発酵し米の味わいを充分に引き出した純米酒。
『山本本家』
「神聖 特別純米原酒 超辛口」
爽やかなリンゴ酸とキレる味。京都府産「京の輝き」を100%使用した超辛口です。
『月桂冠』
「スパークリング日本酒 うたかた」
スパークリング日本酒仕立てで、少し甘めのテイストです。すっきりとしたのどごしの微炭酸のお酒です。
『齊藤酒造』
清酒「英勳」
- 一吟 純米大吟醸
淡麗さとフルーティな吟醸香、優雅さを引き出した上品な味わいが特徴的です。全国新酒鑑評会で金賞を受賞したこともある逸品で、国内外で高い評価を得ています。 - 井筒屋伊兵衛 純米大吟醸
ほのかに漂う吟醸香と淡麗でフルーティな味わいがバランスよく調和したお酒です。 - 古都千年 純米吟醸
キレのある口あたりと程よい辛さがある味わいが特徴。吟醸香も程よく立ち、飲みごたえ抜群の一本です。 - 大鷹
深いコクと適度な辛さ、そして控えめで心地よい香りをバランスよく調和させた冷酒も燗酒も楽しめる純米酒です。
『宝酒造』
「松竹梅」
『増田德兵衞商店』
「月の桂」
『小山本家酒造』
「世界鷹」
『東山酒造』
「坤滴」
『藤岡酒造』
「蒼空」
『松山酒造』
「十石」
『城陽酒造』
「城陽 吟醸大辛口 55」
京都・伏見の日本酒をまとめて最後に…
この記事では、京都・伏見地域が誇る人気銘柄10選に加え、酒米の種類や蔵元の選択、ボトルデザインなど、日本酒選びのポイントまで紹介しました。
伏見は日本三大酒処のひとつで、今でも日本酒の歴史と伝統が息づく地域です。その日本酒も美しい名水と独自の酒米を最大限に生かして多彩な味わいを表現しています。
ぜひ歴史ある町、京都の伏見で日本酒を味わい、その奥深さを堪能してみてください。